旅の空気を届けたい。旅をしながら「Studio Journal Knock」をつくる西山勲さんの旅のカタチ。

Instagramを眺めていたら、ある一冊の本をよく目にするようになりました。
雑誌なのか、写真集なのかわからないけれど、なぜだか惹き込まれてしまう表紙。

Studio Journal knockさん(@knock_magazine)がシェアした投稿

この本の名前は「Studio Journal knock」。

7月24日に銀座蔦屋書店で行われた旅のライフスタイルについて考える連載イベント「旅のカタチ」の第1回目に、この本の制作者でもある西山勲さんが登場されるということで足を運んでみました。

「旅をしながら本をつくる」西山さんはいったいどんな旅をしているのでしょうか。
イベントの内容を少しご紹介したいと思います。

Studio Journal Knockとは
スタジオ・ジャーナル・ノックは写真家・西山勲が世界各地の芸術家を訪ね、彼らの創作とともにある日常を綴る出版プロジェクトです。2013年の創刊以来、タイ・カリフォルニア・ポートランド・南米・ヨーロッパ・東欧・北アフリカを巡り、自身の手記と編集によりこれまで7タイトルが刊行されています。芸術と何か。芸術家たちとは何者なのか。創作の現場へと足を踏み入れ、彼らの言葉や考察、そして美意識に触れることでその神秘に迫ります。(Studio Journal Knock ウェブサイトより)

西山勲さんが写真をはじめたきっかけ

西山さんはもともとグラフィックデザイナーとして広告系の仕事をしており、寝る間もないほど忙しい生活を10年以上つづけていました。
その結果、30代前半でICUにはいり生死をさまようほどの重症を患い、「いつ人生が終わるかわからない」と身を持って経験します。

「人生はいつまでも続くものだと思っていたけれど、もしかして短いのでは?」とセンチメンタルな感情になり、それまで写真を撮ることはありませんでしたが、その時の気持ちにもあっていたことからフィルムで写真を取り始めたそうです。

遥か遠く、モロッコへ

写真を撮りはじめたものの、ただ撮っているだけではなにか足りないとモヤモヤ。

「人生ってもっと自由なのでは?」

そう思ったら極端な場所へ行きたくなり、ハッセルブラッドと持てるだけのフィルムを連れて旅へ出ることに。

目的地はモロッコ。

写真の技術もない、言葉もわからないけれど、とにかく夢中になって現地の人に会って写真を撮る。
デスクに縛られていたときとは真逆の生き返った感覚。

そして帰国後に現像した写真をみて「これだ。」と感じたそうです。

Studio Journal Knockのはじまり

モロッコの後にはタイを訪れ、若い人が集まるギャラリーに足を運び、ひとりのアーティストと仲良くなります。そして彼の日常を撮影するように。
当初計画していなかった出会いが起こり、旅が発展していくことがとてもおもしろかったそうです。

その時のことを旅行記としてブログに書いていたそうですが、あまりにもおもしろいので急いでラフを描きはじめ、あっというまに1冊の本ができあがります。

「Studio Journal Knock」第1号の誕生です。

売り方がわからなかったため、本をキャリーケースに入れて全国約100店舗の書店をまわってとにかく売り込み、最終的に30店舗で取り扱われることに。
「売り物のクオリティではない」、「取次店を通してほしい」など感触は厳しかったけれど、全てがはじめてのことだったのでポジティブに捉えていたそう。

おもしろいねとその場で買ってくれる人もいて、ユトレヒトの江口さんは雑誌に掲載する本のセレクトにも選んでくださり、自分の本のことを江口さんの言葉で説明してもらえたのを見たときは、うれしすぎて泣いてしまったそうです。

世界一周を決意

西山さんは旅をしてアーティストに会うことが楽しくて、「これがやりたい!」と強く思い、世界一周をしながら本をつくることを決意します。

当時フリーランスのデザイナーとして請けていた仕事をすべて辞め、家も引き払い、車も手放し、荷物はほとんどない状態に。
お付き合いしている女性も「わたしも行きたい」と同意してくれ、2人で世界一周へ出発します。

現地で本をつくる

西山さんは通常の本の制作プロセスを経ながら自分たちも移動していくスタイルをとり、旅をしながら本をつくることにこだわっています。

現地でフィルムを探し、ラボを見つけてスキャンしてデータにする。レイアウトをつくり印刷会社に送り、色校正を滞在地に送ってもらう。修正指示をしたら次の都市に戻してもらう。受け取り撮影をして発売告知をして売り込む。

驚くほど手間も時間もかかってしまうのに、なぜ旅をしながら本をつくることにこだわっているのでしょうか。

旅の空気も本にのせて届けたい

西山さんは「旅はとてもフィジカルなもの」と言います。

匂い、味、出会う人、ダイレクトに自分の身体に当たるものを伝えるためには、今つくらなければならない。
現地の空気を感じながらつくることは、かえがえのないこと。

「現地のラボを使うので色味も異なり、汚いものもあるけれど、それも味があるし、旅の空気を届けられます。ウェブの記事という選択肢もあるけれど、旅の体験や経験は形に残らないから、本にして届けたかったんです。」

感じたそのままを伝える

言葉はお互い第2言語同士のことが多く、どこまで伝わっているのかわからないことに悩んだこともあったそうですが、それでいいのではと思ったそうです。

アーティストに直接会い、写真を撮り言葉を交わす。
そこにいる自分が捉えたものをのっけるほうが伝わる。

「彼らの日常の素顔がいちばんうつくしい。それをそのまま伝えたい。」
この言葉がとても印象的でした。

イベントを終えて


1時間半のイベントでしたが、Studio Journal Knockができるまでのお話や、どのように本を制作されているのか、たっぷりとお話してくださり、とても濃厚な時間になりました。

泣けるほどうれしかったことやアーティストと向き合っているときの感動や興奮が、西山さんからひしひしと伝わってきて、お話を聞きながら思わずうるっときてしまいました。

はじめは「旅を本にすること」に興味があり参加したのですが、自分のやりたいことにまっすぐ向き合う西山さんに心を打たれた夜でした。
このタイミングでStudio Journal Knockに出会えたこと、イベントに参加できたことを幸運に思います。

今後もさまざまな地域のStudio Journal Knockの制作を計画されており、その土地の空気をたっぷり含んだ一冊が生まれるのがたのしみです。

■Studio Journal Knock
http://knockmag.com/
InstagramTwitter
取り扱い店舗はウェブサイトのSTORESでご確認ください。

西山勲さんの愛読書

最後に西山さんの愛読書をご紹介します。西山さんが旅や本の制作において影響をうけた5冊です。

■大竹伸朗「カスバの男―モロッコ旅日記」

芸術画がどのように物事をみながら旅をしているのかがわかる。モロッコを選んだのはこの本の影響。

大竹伸朗「カスバの男―モロッコ旅日記」
■石川直樹「最後の冒険家」

ドキュメンタリーの文章の書き方としてとても影響を受けた。

石川直樹「最後の冒険家」
■藤原新也「印度放浪」
藤原新也「印度放浪」
■藤代冥砂「クレーターと巨乳」

フィクションの文章が好き。遠い世界のことを書いているけど旅人の目線がある。

藤代冥砂「クレーターと巨乳」
■ミランダ ジュライ「あなたを選んでくれるもの」

リアルとフィクションの織り交ぜる構成がおもしろい。自分が本をつくりたいときの概念を壊したいときに読む。

ミランダ ジュライ「あなたを選んでくれるもの」
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