今も、あの食感を探している。

20代前半にニューヨークに1ヶ月いたことがある。
それまで数日間の海外旅行の経験はあったが慣れてくる頃には帰国しなければならず、もっと長く滞在することで暮らす感覚を味わいたかった。

もともとカンボジアへ行く予定があったのでその時期の日程航空券を調べたら、カンボジアから帰国した翌日であれば航空券が安かった。
翌々日だと数万円高くなってしまう。

迷うことなく帰国した翌日にニューヨークへ向かった。
かなりの強行スケジュールなのに、翌日とはいっても夜発のフライトだしと、ずいぶん余裕な気持ちだった。若者の旅って感じです。

滞在中は観光名所をほぼ1週間で回ってしまったので、あとはとにかく歩き回った。
泊まっていたホステルで出会った人たちと、一緒に出かけたこともあった。

道端でちょっとだけ写真も売った。日本から持ってきた写真の裏に、買ってくれた人の名前を漢字にしたものを書いて渡すことにした。
その売上で手伝ってくれた友だちとコーヒーを飲んだ。

今思い出しても、ものすごくおもしろい旅だったなあ。

アメリカにはホールフーズ・マーケットというスーパーがある。
初めて見る大きさの牛乳に驚いたり(1ガロンって何?)、量り売りのデリでいろいろ詰め過ぎてめちゃくちゃ高いランチになったのもいい思い出。
海外で訪れるスーパーってどうしてあんなに楽しいんでしょうね。

中でも忘れられないのが、ビスコッティ。
ガラスケースに入っているのをトングで取るスタイルで、たぶん1ドルくらいだったと思う。
おやつとしてたまたま買ったものだった。

何が忘れられないって、その食感。
噛むとガリゴリとするのだけど、ただ固いのではなく、ホロッと砕ける。
食べた瞬間、好きな食感ランキング第1位に躍り出た。

味じゃなくて、食感に感動したのはこの時が初めてだった。

ハマりすぎて現地で食べるだけでなく、バイト先のみんなに食べてほしくてビスコッティがたくさん詰まった大きなケースをおみやげに持って帰った。
(ある子から、このおみやげのビスコッティがおいしかったので実はタッパーに入れて持って帰ったという話を聞いたときは心のなかでガッツポーズした)

それ以来、日本でビスコッティを見つけたときは食べてみるのだけど、あの時の食感には出会えていない。
あまりに感動したら美化しちゃってるのだろうか。どれを食べてもピンとこないまま、もう30代になった。

今でもビスコッティを見るとニューヨークで過ごした日々のことを思い出す。
好きな食感ランキングも今なおビスコッティが第1位です。

でも肝心のビスコッティの写真、一枚も撮ってないんだよな。

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